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高松高等裁判所 昭和50年(く)12号 決定 1975年8月05日

少年 O・J(昭三二・一二・一三生)

主文

原決定を取り消す。

本件を松山家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告申立の理由は、法定代理人父O・N、同母O・E子共同作成名義の抗告申立書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は、要するに少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。

そこで記録(少年調査記録を含む)を精査して案ずるに、少年は、昭和四九年二月七日、松山家庭裁判所において、ぐ犯(不良交友、無断外泊等)の非行により審判不開始決定を受け、さらに、昭和五〇年一月三〇日、同裁判所において、ぐ犯(不良交友、無断外泊等)、重過失傷害、道路交通法違反(無免許運転、救護義務違反)の非行により、試験観察を経由したうえ、保護観察決定を受けたのに、三回にもわたり本件無免許運転の非行を重ね(但し、内一回は前記保護観察決定前の非行であるが、これに先行する試験観察中に犯したものである。)、しかも、無免許であるのに二回にわたり乗用自動車を購入するなどしており、これに加えて、長期間家出、無断外泊を続けていたもので、少年の非行性は在宅保護の域を超えたものとして少年を中等少年院に送致することとした原決定の処分もその限りでは首肯できないわけではない。

しかし、本件各道路交通法違反の非行はいわゆる交通非行そのものであり、また、本件ぐ犯の非行も、少年が交際していたのはいずれもいわゆる暴走族の仲間とか交通非行歴のある者ばかりであり、少年の外泊の原因も、保護者等から無免許運転等について、説諭、叱責されたことに反抗し、無免許運転が警察官に発覚することをおそれたためであることが窺われ、その外泊先も交通非行歴のある○原○方であつて、その間、家出少年に通常ありがちな盗犯、風俗犯等の一般非行を犯す危険性が認められるような状況は何ら見当らないことからすると少年には主として交通非行のぐ犯性が認められるに過ぎないものと考えられる(なお、前件時の非行も本件と多少その態様を異にするとはいえ基本的には本件とほぼ同種の非行である。)。そして、右非行態様に、少年には車に対する関心が異常に強く、雷同性があるなどの少年の性格傾向をあわせ考えると、少年の交通非行についての非行性はかなり進んでいるといわなければならないけれども、一般非行についての非行性は未だそれ程顕著にあらわれておらず、いわんや中等少年院における一般教育課程での処遇を要する程度に迄進んでいるとは到底認め難い。

しかして、原裁判所は、少年を中等少年院に送致したのにとどまり、少年を同少年院での交通短期教育課程において処遇すべき旨の少年審判規則三八条による勧告をしていないことが記録上明らかであるとにろ、前記少年の非行性に徴すると、原決定の処分は少年の一般非行についての非行性を重視し過ぎた嫌いがあり、著しく不当であるといわなければならない。論旨はすなわち理由がある(なお、差し戻しを受けた原裁判所は、本件につき更に審判をなすに当つては、中等少年院での交通短期教育課程において処遇すべき必要性について十分な考慮を払われるよう希望する。)。

よつて、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 井上謙次郎 裁判官 小林宣雄 福家寛)

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